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カヤックとリスク管理

智頭病院小児科医 大谷恭一(1977年度入局)

 前年に続き、2023年7月も沖縄・本部半島のサンゴ礁の海でのカヤックを体験し得ました。
 ホテルに連泊し、路線バスに乗り、出艇適地のバス停で降り、艇を準備し、出艇。原則、一方通行の漕艇コースで、バス停が近い適地で艇を上げ、専用袋に収納し、路線バスでの帰還です。
 還暦記念にと画策した際、全くの偶然で、ヤフオクで、空気で膨らませるカヤック(英国Bestwayの塩化ビニール製)を入手し得ました。現在は米国 Intexの艇を愛用しています。現在、15年目です。
 新コロ禍中となって、カヤックの出艇回数が急増しました。一方、ウィーン、スイスへ出かけられず、日本の海外・沖縄でのカヤックの可否について調べました。沖縄本島北部の(南風を受けにくい)本部半島周囲がサンゴ礁の海が広く、最適と確信しました。ホテルを決め、過疎地ゆえ、運行数が少ない路線バスと出艇適地の検索をしました。2021年7月は準備万端整っていたのですが、沖縄県は新コロ緊急事態宣言となり、催行中止。結果、同期間に、数多くの新コロワクチン接種に携わりました。
 出艇に際しては、馴染みのない海域であり、海流・潮位や直前の風向・風力等の天気を判断し、リスク管理を万全にしました。2022年7月は14日がスーパームーンの満月で、満潮期は良いのですが、干潮に苛まされました。沖縄の海はサンゴ礁・石灰岩で、荒く鋭利な岩が多く、艇底を傷つける懸念があります。実初日の10日(日)は快晴で、風も穏やかな予報でした。その後、次第に崩れる予報で、13日から漕げなくなる懸念を抱き、10日は予定していた約2.5コースを羽地内海で漕ぎました。
 結果、炎天下に10時間、漕艇8時間、20km以上を漕いで、上肢、腰などの筋肉疲労を感じなかったのです。(紫外線対策は頭顔部のみだったので、)露出した上肢、大腿部伸側は真っ赤に日焼け・・・。2023年は、上肢ほかの露出部位にしっかり塗り、二度の熱傷には至りませんでした(笑)。
 カヤックを開始する前から、体は日々鍛えていましたが、近年、強化された感覚を抱いています。また、各種の情報収集をし、安全に漕艇をする(断念する)判断力など、脳力の衰えも、幸い感じません。
 自身にとって、馴染みがなかった医療分野で、情報収集をし、成功裏に導くことが出来た骨髄移植(当時の表記、造血幹細胞移植)を思い出します。1か月間の内地留学を命じられ、同期間、脳小の支援・派遣医をいただき、1987年5月に鳥取県立中央病院の骨髄移植チームが稼働するに至りました。
 ハイリスク症例を担っていた、兵庫医科大学輸血部(現 輸血・細胞治療センター)で、各種病態で移植をしたが早期死亡した例の入院カルテを読み込み、・・・(教室員は、研修になるのかと懸念していたとの後日談)、当初は、素人質問で、次第に、核心を突く質問・提案に至り、結果、失敗しないための指針を作成したのです。教室から指針の提供を求められたのは光栄でした。送別会も嬉しかった思い出です。
 新生児医療においても、赤ちゃんからしっかりと情報収集し、less invasiveに徹し、intact survivalをめざしました。日本小児科学会が1987-89年の3年間、早期新生児死亡率、新生児死亡率、周産期死亡率の都道府県別データを分析した際、鳥取県が最も優れていたのです。東部医療圏においては、致死的先天異常例や、在胎21-23週の例が希少だったこと、鳥大でも医療水準が高まっていたこと、医療機関連携が整って来たことなどが奏功したと理解しています。
 失敗しないために、情報を収集し、実践する大脳の働きの本質は、カヤックなども同じだと感じています。カヤックの単独行に際して、「一人では心配なのでは・・・」発言を再々聞きます。返答は、「自身の力を知っているから安全。他者を伴うと、安全漕艇が損なわれる懸念がある」。つまり、出艇の可否、漕艇コースの急な変更などの判断に係る懸念です。
 2023年も穏やかな海だと呑気な漕艇中に、沸き上がった雲が近接し、急な向かい風となり、浅瀬では波立ちなどナド、急に困惑する天候に出会うと、安全漕艇の技術や体力が試されることになります。
 なお、安全が確信できる地元の堰止湖(湖山池・多鯰ヶ池)や岩美・但馬の一部の海域は、天候を確認した上で、初心者を伴った実績はあります。アナタもいかがですか?
 転じて、2015-19年の5年間、スイストラベルパスを活かし、十二分な情報収集をし、相棒、妻などを伴って催行し得ました。新コロ渦と侵略戦争で途絶えましたが、2024年は、単独行で、(夏季のスイスは荷物が少ないので、)カヤックをスーツケース収納しての持参で、湖上カヤック三昧計画です。
 連泊するのは、グリンデルワルト駅至近の(アイガー北壁を自室バルコニーから眺める)家族経営の定宿です。侵略戦争勃発前に、既に、各種の湖や運河での出艇適地の検索を終え、電車や路線バスでの移動についても確認を済ませていました。日によっては、朝からトレッキングルートを歩き、夕方、インターラーケンに移動し、サンセットカヤックなども。齢74歳が近い身での催行です。
2023年7月の沖縄カヤックで魅せられ、撮った写真を添えました。

(鳥取大学医学部脳神経小児科同門会誌用の原稿 2023/7/20)

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